樋口由紀子
友だちの蹴ったボールを取りに行く
重森恒雄 (しげもり・つねお) 1950~
野球では投手の投げたボールを打者が打ち、それを野手がとる。サッカーでは相手の蹴ったボールを奪い、また蹴る。球技ではそれがルールである。しかし、掲句はそういう場面のことを詠んでいるのではない。人生においてのあるひとコマを切り取っている。
友だちの蹴ったボールを取りに行かねばならないことがあったのだろう。納得はいかないが、なぜかそういうことになってしまった。ボールは草叢のなかをどんどん転がっていく。悲壮感があるわけではないが、ボールを追いかけていていくうちに、やっぱり理不尽だなと思ってしまった。意義を唱えているわけではないが、ちょっと引きずっている。
〈ぺたぺたと走るぺたぺたついて来る〉〈家族会議で明日は雨にしてしまう〉(「川柳カード」第3号・2013年7月刊)収録。
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