樋口由紀子
老人は死んでください国のため
宮内可静 (みやうち・かせい) 1921~
掲句が発表されたときは話題騒然だった。賛否両論の嵐で、否の方が圧倒的に多かった。実は私も否の側であった。内容の過激さに拒否反応の感情が先に立った。
川柳はポエジーであってほしかった。川柳は言葉から言葉への想像力のはたらくものであってほしかった。掲句は衝撃的な意味内容だけで、言葉に工夫がないと思った。が、それは狭い了見であり、読みが足らなかった。言葉の知恵に気づかなかったのだ。
「その呆け具合といい、突っ込み具合といい、国家と個人の関係が見事に川柳的に描かれている」(『セレクション柳論』)と渡辺隆夫はまっさきにこの句を認めた。確かに独自のひねりがある。全般を覆っている大きな突っ込みが見えなかった。やっとこの句に向き合えるようになった。
宮内可静の78歳の時の作。「オール川柳」(平成9年12月号)収録。
●
0 件のコメント:
コメントを投稿