樋口由紀子
歯医者から本一冊を借りてくる
安黒登貴枝 (あぐろ・ときえ)
身辺を詠んでいる。それもドラマチックでもなんでもない日常。
どの病院の待合室にも本が置いてある。診察の順番が来るまで、本を読んで時間を潰す。自分では買ってまで読まないものが大方である。
その待合室で読んでいた本を借りた。しかし、これがなかなか出来ない。気軽に借りられそうで借りにくい。掲句もしかり。書けそうで書けない。見ているようで見えない。捉えそうで捉えられない。歯科医院の場面設定がいい。
どんな本を借りたのだろうか。わくわくとして持ち帰ったのだろう。ふつうに暮らしていると取り立ててときめくことなんてほとんどない。ささやかだけれど、日常のまっただなかで頃合いの非日常を作者は見つけたのだ。〈ていねいに洗ってあげる皿の裏〉〈天声人語 ネブカ一本抜いてくる〉 「月曜会」(2013年6月刊)収録。
●
0 件のコメント:
コメントを投稿