2013年10月18日金曜日

●金曜日の川柳〔細川不凍〕樋口由紀子



樋口由紀子






台風一過 あとにさみしき男の歯

細川不凍 (ほそかわ・ふとう) 1948~

今年はやたらと台風が多い。台風一過とは台風が過ぎ去ったあとにはとかく上天気が来るということである。「台風一過」を「台風一家」と勘違いしていた頃があった。暴風もあり、強雨もあり、しかし、その後は晴天。一家にたとえているのだと思っていた。

掲句は「男の歯」が印象的。嘘みたいに晴れ上がった天気の中、ふと気づくと残されたのは自分独りであるような感慨。男の歯は真白く光り、寂しさを際立たせる。その歯で物をかみ砕き、いつもどおり生きていく。台風が来た現実ともう一つの現実を擦り合わせる。

不凍は高校二年の夏に飛び込み事故で首(第七頚椎)を脱臼骨折し、神経を切断。車椅子生活となる。〈流氷接岸 心カタカナにして臥す〉〈神と交わる母をみている長い冬〉〈手花火のあとのしじまを妹と〉 『雪の褥』(昭和62年・かもしか川柳文庫刊行会刊)所収。

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