樋口由紀子
なんという虫かと仲がなおりかけ
食満南北 (けま・なんぼく) 1880~1957
なんという艶っぽい川柳であろうか。夫婦の仲ともとれるが、そうではない男と女の仲のような気がする。気まずい沈黙のなか、ふと虫が鳴き出した。「なんという虫かな」とひとりごとのようにつぶやく。相手はまだ黙ったままだが、そう言われて、先ほどまでの血相の変わった顔が心なしかゆるみかけている。虫の音を聞くうちに、気持ちもほぐれて、仲なおりできるのは時間の問題だろう。たぶん、食満南北は憎めないワルい男だったに違いない。
夫婦ではこうはいかない。いさかいの種も、喧嘩の仕方も、もちろん喧嘩の後も、全然違う。少なくとも我が家では喧嘩をしたら、虫の音ぐらいでは仲直りできない。
食満南北は初代中村鴈治郎の座付作者として大阪劇界に活躍した。〈顔見世の東は東に西は西〉〈泣いていてふっと手摺りのおもしろさ〉〈今死ぬと言うのにしゃれも言えもせず〉
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共和サブカル虫かと床下マフィア
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