相子智恵
篝火に影曳く亡者踊かな 山内繭彦
句集『歩調は変へず』(2013.9 角川書店)より。
〈秋田・西馬音内 四句〉と前書きのあるうちの一句だ。筆者は見たことがないが、〈亡者踊〉とは、秋田県雄勝郡羽後町西馬音内(にしもない)の盆踊りだそうである。盆踊りとしては全国で初めて国の重要無形民俗文化財に指定され、阿波踊り、郡上おどりと合わせて日本三大盆踊りに数えられるという。
〈亡者踊〉といわれるのは、踊りの輪の中に「彦三(ひこさ)頭巾」という目だけが空いた黒い覆面の踊り子が多く入っていて、亡者を連想させるからだそうだ。筆者はこの〈亡者踊〉が何だかわからないままに惹かれ、この句に立ち止まった。
篝火の周りを踊り手が踊っている。篝火の明りを受けて、踊り手たちの影は地面に長々と伸びている。その長い影が踊るさまは、まるで「亡者」が踊っているかのようだ。亡者の霊をなぐさめるための、亡くなった者とともにある「盆踊」という季語の本意に迫った句だと思った。静かに、ひたひたと踊りは続いていくのだろう。
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