相子智恵
障子張り替へて薄暮の水の音 本宮哲郎
句集『鯰』(2013.10 角川書店)より。
一読、しみじみとした。障子を張り替えてほっとした黄昏、その障子越しに、うっすらと薄暮の光が入ってくる。ほわんと黄色っぽい、やわらかな冬の光だ。そこに水の音が聞こえている。庭の井戸や池などの水音だろうか。あるいは近くに小川でもあるのかもしれない。いずれにせよこの水の音は、きっとささやかな音だろう。だんだん目が効かなくなってくる夕暮れに、目と交代するように、耳がよく聴こえてくるのだ。
障子の張替えという日常の一仕事を終えたささやかな充足と、全体が夢の中であるような、やわらかな光と音の風景。日常の中に詩の扉があるとすれば、こういう一瞬のことなのかもしれない。
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