相子智恵
別の世へうつらば別の紅葉かな 渡辺松男
句集『隕石』(2013.10 邑書林)より。
花はこれから実る生命力に満ちた美しさだが、紅葉はこれから枯れて落ちる前の美しさで、だから私は毎年紅葉を見るたびに、美しいけれどどこか抜け殻のような、その華やかな赤色の中に死のにおいがするような気がして、薄ら寂しく思ってきた。
掲句の〈別の世〉に、そんなことが思い出された。ここではない〈別の世〉に移ったならば、そこには〈別の紅葉〉がある。その紅葉を見、また別の世へ移ったなら、また別の世の紅葉が……どこまでも定まらない無限の〈別の世〉への移動と、そのたびに死の直前の美しさを放つ紅葉を見続ける寂しさ。無常で空虚で、でもとても美しい一句である。
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