相子智恵
山があり山影のあり いちまい 小川楓子
「かうばしい」(『つばさ』2013.12月号/特集:ガールズ・ポエトリーの現在)より。
ひとつの山がある。そこにひとつの山影ができる。〈いちまい〉が山影にかかるとすれば、山から伸びた影が一枚、ぺたりと地に貼り付いているということになるし、〈いちまい〉が山と山影の両方にかかるなら、山と山影のある風景そのものが、一枚の切り絵のようにぺらぺらになる。私は後者の想像をした。
上五から中七までは山影の効果もあって、風景は妙に立体的に想起されてくるのであるが、一字空けをした下五の〈いちまい〉によって、頭の中の山と山影は、一気に「ぺしゃん」と潰れてその質量を失ってしまう。
一字空けの「間」の効果と、〈いちまい〉の「字足らず」の効果は、ちょうどジェットコースターに似ている。ジェットコースターが落ちる寸前の、頂上にいる絶妙な何秒間かが一字空けで、そこから一気に滑り落ちるスピード感が字足らずである。〈いちまい〉には、そんな爽快な破壊力があった。
この句に季節を表す語はないのだが、〈いちまい〉で、なぜか色まで失うような気がして、私の心の中にはぺらぺらの、モノクロの冬の山が想像された。
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