相子智恵
一人づつ雪のはう向く自習かな 堀下 翔
「里」2014年1月号「ふるさとはいつも雪」より。
学校の自習室だろうか。あるいは図書室か。窓辺に向かって机が並んでいる風景を思う。あるいは急遽自習になった教室で、〈一人づつ〉窓辺の雪に目を留めているのかもしれない。
雪の日の自習という学生生活の一コマ、そこにあるのは「静けさ」である。〈一人づつ雪のはう向く〉からは、誰も彼もがお互いに話すことなく、静かに過ごしている自習時間が見えてくる。一人一人が自身の受験や将来のこと、恋のことや、家族のこと…そういった自分にとって大きな問題を、静かに降り続ける雪を見つめながら内観しているように思えるのである。
一緒に自習をしている仲間が、それでも一人ずつであるという心理的距離感と、そこに降り続ける雪の白さ。青春の切なさのある句で心に残った。
掲句は「堀下翔十八歳八十句」と題された特集より引いた。作者は旭川の高校生。「ふるさとはいつも雪」は30句の作品で、第十回鬼貫青春俳句大会優秀賞受賞作の再録である。〈詫び状を渡さむ冬の霧へ出る〉〈首酔へりゆるく巻きたるマフラーに〉〈雪染みの夕刊父のことが載る〉〈シャッターの音の眩しさ枯木立〉〈樹氷林スケッチに空描き入れず〉など、冬の句ばかりの30句が清新だった。
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