2014年1月20日月曜日

●月曜日の一句〔野口る理〕相子智恵

 
相子智恵







しづかなるひとのうばへる歌留多かな  野口る理

句集『しやりり』(2013.12 ふらんす堂)より。

一瞬から見えてくる物語がとても豊かな句だ。主人公は物静かな人。控えめで穏やか、でも心の中には見えない壁があり、何を考えているのかわからない。誰とも群れない大人びた(そしてきっと美しい)生徒。男女の別はわからず。……そんな青年像が浮かんできた。

その〈しづかなるひと〉の秘めた心の激しさを不意に見たのが、歌留多取り遊びの場であった。おそらく百人一首、そして素早く奪ったのは、きっと暗記するほどに好きな「恋の歌」の札であったろう。

〈しづかなるひとのうばへる〉というやわらかな平仮名の流れは、穏やかな主人公そのもののようにも感じられる。そして「取る」ではなく〈うばへる〉という一語によって、この人が一瞬見せた内面の激しさを見事に切り出している。この句自体が百人一首に出てきそうな世界だ。

『しやりり』は、独特の美意識が感じられる句集だ。正面切った激しさはないのだが、句の内側には静かな激しさがとろとろと燃えている。その静かな激しさとは、美や言葉へと向かう内向きのもので、日常を描いている句は多いものの、決して自己表現として外へは向かわない。むしろ自分に対しては離れたところから眺めているように見える。しかしその内向きの中に、強い自意識が表れているのだ。妙に浮き世離れした、不思議な手触りの句集である。

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