樋口由紀子
寂しさに大根おろしをみんなすり
岩井三窓 (いわい・さんそう) 1921~2011
冬は大根がおいしい。しかし、一人暮らしの娘は大根を一本買ったら、大根炊き、大根サラダと、いつまでも大根がなくならず飽きてしまうと言う。まして、大根おろしならなおさらである。大根おろしは一人暮らしでなくても、そんなにたくさんはいらない。
寂しいという心情と大根おろしをするという行為の結びつき。たかが大根おろしだが、ぼんやりしていたのでは手をすってしまう。一心不乱に大根をすっている間は寂しさを一刻忘れられる。「みんなすり」とは一本全部をすってしまったのだろう。すり終わった大根の真白い山を見て、もっと寂しくなったことまで想像してしまった。「に」と「を」の助詞の使い方が巧み。
岩井三窓は川柳最大の結社「番傘」の編集長を昭和51年から60年まで務め、数多くのエッセイを残した。『句集三文オペラ』(番傘ひこばえ 1959年刊)所収。
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