樋口由紀子
塀があるここ中(なか)やろか外(そと)やろか
森本夷一郎 (もりもと・いいちろう) 1923~2010
今期の芥川賞受賞作は「穴」であった。掲句は塀である。今居る所は塀の中なのか、外なのか。あたりを見回しながらふと考えてしまった。なんともとぼけた川柳であり、かなりの皮肉である。
「やろか」には関西弁独特のイントネーションがある。疑いの意をもった推量の「あろうか」だろう。五七五のリズムと共につぶやくような「やろか」が効いている。森本夷一郎は京都生まれの京都育ち、京都で一生を過ごした。
塀は比喩だろう。さまざまな解釈ができる。さて、あなたは塀の中、塀の外、どちらにいるのでしょうかと問われているような気がする。塀の外にいるつもりが案外塀の中に居るのかもしれない。それとも穴の中にいるのだろうか。『森本夷一郎川柳作品集』(川柳黎明舎刊 2002年)所収。
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