相子智恵
天泣や土偶の洞が火(ホ)
と叫ぶ 佐々木貴子
句集『ユリウス』(2013.11 現代俳句協会)より。
〈天泣〉は上空に雲が全くないにもかかわらず雨や雪が降る現象。天気雨、狐の嫁入りのことだ。それと響き合うのは目や口が洞になった土偶である。土偶の多くは女性をかたどったとされ、農耕社会では豊穣の神として、地母信仰の呪術用、護符のような役割を持っていたといわれている。
土偶が「ホ」と叫んでいる。ホは「火」だ。そこに雲ひとつない空から天気雨が降ってくる。火と水、そして土偶の土が出会う。火と水と土は渾然一体となり、原初の力強さとなってこちらに迫ってくる。「土偶」「洞」「ホ」のOの音が畳み掛けてくるのも、何かに飲み込まれるような気持ちになるのだ。不思議なパワーを持った一句である。
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