樋口由紀子
花鰹風があるとは思われず
山本芳伸 (やまもと・ほうしん) 1909~1983
ほうれん草にかけた花鰹か、お好み焼きの上にのった花鰹か、ふわっと揺れたのだろう。日常茶飯事の、どうってことない、たったそれだけのことである。花鰹が揺れたって、あらためて何かを思うことなんてふつうはない。あれっと思って、風があるのかなと思ったことを素直に表現していると最初は読んだ。しかし、何度も読むうちに解釈がつかない出来事のようで、なにやら不思議な余韻が残った。
この世は目に見えるものだけがすべてではない。よく考えても原因や結果のわからないことが多い。死生観に繋がっていく。花は花でも花鰹というのもいかにも川柳的である。
〈死ぬものは死ぬさ俺の知ったことかい〉〈七十の下駄ひびかせて死にとうない〉『老い』(昭和58年刊)所収。
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