2014年3月3日月曜日

●月曜日の一句〔染谷佳之子〕相子智恵

 
相子智恵







男雛火のいろの舌覗きゐる  染谷佳之子

句集『橋懸り』(2014.1 角川学芸出版)より。

雛人形は口を閉じているものばかりではなく、よく見ると歯が見えていたり、舌が覗いているものもある。私がかつて持っていた雛人形は、笛を吹いている五人囃子や左大臣などは口が開いていたような記憶があるが、男雛はどうだったか、記憶にない。

「男雛の舌が覗いている」というだけでもなんだか薄気味悪くドキリとするのだが、それが〈火のいろ〉だというから、情念さえ感じる。雛人形は「形代」としての役割を持っている。人間の災いを代わりに背負ってくれるのだ。その人形への後ろめたさというか、潜在的な怖さがあるから〈火のいろ〉が強く響くのかもしれない。ハッとさせられる写生句である。

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