相子智恵
ひこばゆる彼の恐龍の頬骨に 三輪小春
句集『風の往路』(2014.3 ふらんす堂)より。
面白い蘖の句だ。蘖は樹木の根元や切り株から、春になって新しい芽が何本も吹き出すという季語だが、それが木からではなく、朽ち果てた恐竜の頬骨から出ているというのである。
〈彼の恐龍〉とはどんな恐竜だろうか。きっと植物を食べていた草食恐竜だろうと思った。くわしくないので調べてみると、有名なところではトリケラトプスやイグアノドンなどが草食恐竜であるらしい。
鬱蒼とした森の中で、朽ち果てた木々と一緒に、絶滅した恐竜の骨が眠っている。その頬の部分から萌え出た、明るい緑の小さな若芽。まるでディズニーやジブリ映画のように、たいそうロマンティックで壮大な風景である。発想に驚くとともに、この句の悠久の世界に思いを馳せると、なんともいえず大いなる「安らかさ」に包まれる。何かチマチマしたことで悩んだ時には、この句を思い出したい。
●
0 件のコメント:
コメントを投稿