樋口由紀子
ほんものの息子は電話してこない
真鍋心平太
思わず笑ってしまった。そして、笑ったあとにしんみりとした。これは川柳の要所である。
「オレオレ」とにせものの息子は電話してくるご時世なのに、実の息子からはとんと連絡がない、というのはよく聞く話。我が家ご多分にもれず、娘はうんともすんとも言ってこない。いやはや、である。便りのないのは良い便りと思うしかない。
「ほんもの」のひらがな表記がいい。あやふやさ、よりどころのなさ、やわらかさ、もろさ、つかまえどころのなさなど、すべてを含んでいるような気がする。
実際に被害に遭って、えらい目にあっている人がいるのに、詐欺に感心してはいけないが、オレオレ詐欺を最初に考えた人にはびっくりする。人の心情をあきれるぐらい逆手にとっている。この智恵を人のものを奪うことで生かすのではなく、他のことで使ってほしかった。
「川柳瓦版」(平成26年度第一回「咲くやこの花賞」)。「川柳瓦版」は岸本水府が昭和34年に創刊した時事川柳専門誌である。
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