樋口由紀子
味噌汁は熱いか二十一世紀
田口麦彦 (たぐち・むぎひこ) 1931~
味噌汁が熱いかって、熱いに決まっている。冷めた味噌汁なんて飲めたものではない。二十一世紀になっても、それは変わるはずがない、はずである。掲句は二十世紀に作られた。
しかし、作者はあたりまえなことがあたりまえでなくなっていく世の中になるのではと思ったのだろう。あるいはそんな食卓はなくなっているかもしれないと言いたかったのか。声高に叫ばれていないが、呼び起こされるものがある。
世紀を跨いで生きるのに複雑なものが確かにあったなと思った。新しい世紀の幕開けの期待と同時にこの先どうなっていくのかという不安もつきまとった。世紀末という言葉も流行った。
どんな社会になり、どんな価値観が台頭するのか。そんな危惧が作者の頭によぎったのだろう。それは味噌汁に限ったことではない。二十一世紀になって価値の変わったものは確かにいろいろとあり、これから先も出てきそうである。『昭和紀』(北羊館 平成元年刊)
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