相子智恵
緑蔭に引戻しては遊ばせる 今橋眞理子
句集『風薫る』(2014.4 角川学芸出版)より。
青葉が茂る涼しい木陰で、子どもを遊ばせていたのだろう。子どもは夢中で遊んでいるうちに緑蔭の下から飛び出てしまい、いつの間にか炎天下で遊んでしまっている。子どもにとっては日陰も日向もお構いなしで、遊び場は無限大なのだ。
それに気づいた母親が子どもを緑蔭に引戻す。緑蔭の中で遊んでいた子は、またいつしか炎天下に飛び出してしまうのだろう。引戻すことを何度か繰り返しながら、緑蔭は動き、夏の日は暮れてゆく。安らかな母子の時間である。
本句集は自身の結婚の句に始まり、2人の娘を産み育て、長女の結婚の句で終わる。35年の生活とともにあった句を一冊に収めた句集である。掲句には誰が誰を遊ばせるのかは書かれていないが、きっと自身の経験から生まれているのだろう。母のまなざしから生まれた句であると読んだ。
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