相子智恵
鮎かがやく運命的って具体的 宮崎斗士
句集『そんな青』(2014.6 六花書林)より。
「運命」といえば重苦しいのに、〈運命的〉と「的」を付けたとたんに一気に軽くなり、女性誌のノリになるのだなあと、この句を読んで改めて気づかされる。たとえば「運命的な出会い」「運命的な恋」……など。〈具体的〉も、これまた実用書のにおいがして、〈運命的って具体的〉の〈って〉も軽く、しかも〈運命的って具体的〉の語呂もたいへんによく、私はなぜかこの句を読んで、本屋の実用書コーナーや女性向け自己啓発本コーナーの、蛍光ピンクの装丁や、題名がどーんと大きく書かれた本たちがひしめく、つるりと光った「平置き棚の明るさ」を思い出した。
そして〈鮎かがやく〉のじつに健康的なこと。わざわざ〈かがやく〉と言ってのけた、この一点の曇りもない健康的な明るさは〈運命的って具体的〉のあっけらかんとした軽さとよく響いている。繰り返される「K」の音も「キラキラ感」を強めているのだ。この光り輝く鮎からは、自然の生命力よりも、サプリメントのように計算された餌を食べて育った養殖魚のような「作られた健康」を感じる。
一句の中には鮎の姿しか「具体的」には見えてこないのだが、じつはその奥に現代の私たちが暮らしている社会の軽さやチープさの中にある、明るく軽い抒情がうまく掬い取られているのが面白い。
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