樋口由紀子
画家よ 私なら一切を無色で描く
北村雨垂 (きたむら・うすい) 1901~1986
色彩は画家にとって重要であり、大事な見せ場である。その画家に向かって、「無色で描く」と叫ぶ。いや叫ばずにはおられない雨垂なのだろう。不遜な、危険な一句にびっくりすると同時に感心する。
彼の強烈なアイデンティティを感じる。他のだれでもない自分と真剣に向き合っている。他と区別することによって、自分を出していくしかない。だからこそ、画家に対して「無色で描く」と言い切ってしまうのだろう。自意識の強くて、傲慢な、雨垂の存在証明の一句である。人というものの不思議さ、可笑しさを思う。
〈分裂(かくめい)の風景 蝸牛の触覚(ねむり)〉〈頭蓋骨(むなしさ)の私に莞爾たれと責むも〉。独自のルビをうった。「鴉」22号収録。
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