樋口由紀子
ギヤマンの切子(きりこ)
に映る午下(ひるさが)
り
河柳雨吉 (かわやなぎ・あめきち) 1902~1971
なんと華やかで美しい川柳であろうか。このような句が昭和の初めに書かれていた。ギヤマンの切子にくらくらする。鍋や薬缶に映る私のひるさがりとは別物のようなである。
ギヤマンの切子の形状をそのまま述べるのではなく、午下りを映すことによって、その存在をより印象的なものにしている。まして、午下り。抽象的で、やけに明るく、それでいてなんともけだるい。現実の事象ではない。カットグラスのキラキラの繊細さと鋭利さが、日常を離れた別の世界に誘う。ギヤマンの切子に映った世界を作者は受けとめる。
河柳雨吉は東京神田の生まれ、浴衣地商で句会には白足袋をかかさないお洒落な人だったらしい。〈台所更けて柄杓の沈む音〉
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