相子智恵
ようけ飛んだらいやらしいで蛍は 山内節子
『七野七種』(2014.7 角川学芸出版)より。
印象的な一句であり、同時に印象的な一言である。きっと蛍が見られる美しい田舎で、言葉から関西だろうと思われる。発話者は土地の人だろうか。蛍が乱れ飛ぶ様子をよく知っているのだ。
調べてみると、蛍は幼虫や蛹のころから警戒行動として光り、成虫になると求愛行動として光るという。一匹二匹、飛んでいる分には蛍の恋の光は美しく儚く感じられる。だが一斉に飛ぶと、美しいというレベルを超え、生存競争でもあるのだから「いやらしい」ほどの力強さであり、鬱陶しさ、迫力なのだろう。宮本輝の小説『螢川』を思い出したりもする。
定型に収まらないリズムの言葉をそのまま一句にするというのは大胆だが、ほかが有季定型の句ばかりの一冊の中に、このような臨場感あふれる破調の句がポンと置かれると、作者の自在さに触れたような気がして、見ず知らずの方の句集が涼しく感じられてくるのである。
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