相子智恵
四つ折の千円ひらく夜店かな 鶴岡加苗
『青鳥』(2014.7 角川学芸出版)より。
「夜店」という季語はノスタルジーとともにあると思う。社会人になると案外地元の夜祭には行かなくなるもので、親と行った幼少期や、小・中・高校時代に子どもたちだけで出歩くのを許された、自由な夜のドキドキ感など、現在ではなく、幼少から青春時代にかけての「懐かしさ」と結びついている気がする。歳時記の例句にもそのようなものが多い。
掲句、そんな「夜店」という季語を意外な場面で捉え、じんわりとノスタルジーを感じさせた。大人は普段使う千円札をわざわざ四つ折りに畳んだりはしない。それだけお金は日常なのである。だからこの四つ折りの千円札は、子どもが小遣いでもらい、小さな財布に入れていたものではないかと思うのだ。もしかしたら、お年玉などポチ袋に入っていた四つ折りの千円札を、お祭りのために大事にしまっておいたのかもしれない。お札の折り方で、作中主体の年齢が出ているような気がするのである。
〈飼へぬかもしれぬ金魚を掬ひけり〉という句もある。こちらは逆に冷静な視点があり、大人になってからの句ではないかと思われた。
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