樋口由紀子
湯上りの爪が立たない夏蜜柑
早川右近 (はやかわ・うこん) 1896~1969
川柳における写生句であろう。作者が経験したことかもしれないが、第三者として、実際に見たことを詠んでいるように思う。夏蜜柑の黄に爪の白、そのコトを見て、写生した。
昔の夏蜜柑の皮は今よりもずっと固かった。それに対して湯上りの爪はやわらかく、温州みかんのようにすぐには剥けず、力がいった。夏蜜柑そのものよりも容易に剥けない爪の方に意識の比重がかかっている。その事実を捉えている。些細なことであるが、その些細なことから作者の世界観が拡がっていく。
子どもの頃は庭に夏蜜柑の木がある家はあちこちにあり、家々の庭には夏蜜柑がたわわに実っていた。ごつごつしていて、見栄えもよくなく、かなり酸っぱかった。そんな規格はずれのものが妙になつかしい。爪は立たないかもしれないが、食べたい。
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