相子智恵
先生のゐない銀座の夏柳 仁平 勝
『仁平勝句集』(2014.6 ふらんす堂)より。
先生の不在を心細く思っている主体の年齢は、先生を持ったことのあるどの年代でも、たとえば現在学校に通う学生でもいいのであるが、〈銀座の夏柳〉の大人の感じからすれば、やはりこれは大人の句であろう。
大人が、自分よりも年長の先生の不在を寂しがっている。この先生は亡くなったのではないかと思われてくる。〈銀座の夏柳〉は風に揺れて涼を誘うが、ここではそのふらふらと揺れる柳の姿が、先生というどっしりとした支えを失った自分と重なってきて、なんとも心もとない。
また、銀座という土地をわざわざ読み込んでいるからには、この先生が銀座を愛した粋な人だったのではないかと、その人物像まで見えてくるような気がする。この先生と銀座で飲んだこともあったのだろう。粋でさらりとした大人の句で、だからこそ〈先生のゐない〉の、ふと出た子供っぽい直接的な言葉が胸にしみるのである。
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