樋口由紀子
横綱のくしゃみが聞ける夏祭り
森 茂俊 (もり・しげとし) 1953~
急に涼しくなった。もう秋である。夏祭りの余韻はもう残っていない。でも「横綱のくしゃみが聞ける夏祭り」があったのなら行ってみたかった。横綱に会える夏祭りならあるだろうが、くしゃみが聞けるなんて、そんなチャンスは滅多にない。でも、よく考えるとそんな夏祭りなんてあるわけがない。よくよく考えると「くしゃみ」を聞いたって、どうってことない。「くしゃみ」に引っ張られるくだらなさが良い味を醸し出している。まんまと作者の仕掛けに嵌ってしまった。
こんなことをあっけらかんと一句にしてしまうところに感心する。こんな嘘に一瞬、楽しませてもらう。虚構とはまた別のような気がする。〈上半身だけはモノクロのビール〉〈賽の目に切れば良かったお中元〉 「ふらすこてん」(2014年9月刊)収録。
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