2014年9月22日月曜日

●月曜日の一句〔船橋とし〕相子智恵



相子智恵







対ひあふ真夜の文机虫しげし  船橋とし

句集『輪唱』(2014.6 角川学芸出版)

真夜中、向かい合わせに並んでいる二つの文机。何気ない部屋の中の風景であるが、「向ひあふ」ではなく〈対ひあふ〉と「対」の字を使ったことで、この二つの文机がより緊密に、対となって存在している感じが出てくる。

静かな緊張感で佇んでいる文机は、対峙しているようにも思え、文机の持ち主たちはここに座って真夜中のおしゃべりをするのではなく、二人でありながら一人一人の世界を形成するものとして文机が存在しているようだ。この文机の持ち主の関係も、たとえば老夫婦のような静かな密度を思う。

誰の声も聞こえず、物体と虫の声だけで構成された句。その奥に、二人でいながら一人と一人という、人間の静けさも見えてくる。秋の夜長らしい、しみじみとした句である。

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