相子智恵
崩れゆく花火の上を鳥の影 亀割 潔
句集『斉唱』(2014.9 ふらんす堂)より
大輪の打ち上げ花火が崩れて消えかけている夜空。花火の名残りの明るい空を見ていると、その上を鳥の影がスーッと渡っていった。夜空の中の影という、ふつうは見えない微妙な陰影を繊細に描き出した、絵画のように美しい一句である。
〈崩れゆく花火〉の喪失感と、横切る鳥の影は、夏から秋への移り変わりを深く印象付ける。納涼の花火から渡り鳥の季節へ、静かに季節は移り変わってゆくのだ。季節は巡るが、この瞬間は一度きり。瞬間を切り取りながらも、同時に留まることのない時間というものが描かれていて「あはれ」のある句だと思った。
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