相子智恵
草の束毟つて濯ぐ芋煮鍋 菊田一平
句集『百物語』(2007.12 角川書店)より
河原での芋煮会が終わり、空になった大鍋を洗っている。川の水を鍋に入れ、河原に生えている草を束にして毟り、その草でゴシゴシこすって汚れを落としているのだ。現代の観光化された芋煮会ではないような、野趣あふれる句である。
毟り取った草の香りは、夏草とは違って乾いた香りがするだろう。晩秋の川の水も、夕暮れ時の川風もきっと冷たく、せっかく芋煮で温まった体も、すぐに冷えてしまいそうだ。秋の日はあっという間に暮れてゆく。草の束という自然のものを使い、全身の力を込めて大きな鍋を濯ぐ河原での風景は、五感のすべてをむき出しにして晩秋という季節を感じさせてくれる。力強い一風景である。
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