樋口由紀子
マネキンは手をあげたまま夜が来る
田中明治
明りの消えた商店街の店舗の前や裏に用済みになったマネキンが無造作に積まれているのを何度か見たことがある。店頭で綺麗に着飾っているマネキンは華やかで美しいが、役の終えたマネキンはなんとも侘しい。
そのほとんどのマネキンは手をあげている。洋服の着脱のためだろうが、動作の途中で無理やり止められたような、誰かに助けを求めているように見える。しかし、マネキンに足を止める人はほとんどいない。
夜が来て、あたりはさらに暗くなり、マネキンが手をあげて呼んでいるのも気づかれない。マネキンは手をあげたままでどこかに連れていかれるのだろうか。マネキンに自分自身を投影している。夜が来て作者とマネキンの距離はぐっと縮まる。
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