関悦史
白梟頸回さねば白づくめ 猪俣千代子
梟というと闇夜に啼く猛禽というやや不気味なイメージがあるためか、いわゆる写生的な句よりも、例えば加藤楸邨の《ふくろふに真紅の手毬つかれをり》のように、内面に食い込む幻想的な詠み方をされたものに印象的な句が多い。
「白梟」となると例句を思いつかないので検索してみると《閉じる眼の向うが遥か白梟》花谷清や、《略歴に白梟と暮らせしこと》水口圭子といった作が出てくる。いずれにしても体内感覚や自意識とのかかわりを詠んだ句である。
掲句はあまりそういう要素がなくて、ただただ白梟というものの独自の姿かたちに無邪気に興じている印象。
鳥類としては頭部が大きい、マトリョーシカか何かのようなシルエットを持つ、白いもこもこの羽毛の塊。そして不意に思いもかけぬ角度に回りこんでこちらを見る頸。
「回さねば」とあるので、後ろ姿の印象が強くなる。目鼻もない「白づくめ」の妙な物体にたやすく化けてしまうナンセンス味が面白く、それで白梟の造化の不思議さと愛嬌が伝わってくる。
句集全体としては真面目に構えた佳句も少なくないのだが、この句は物見遊山的なまなざしが妙なものに出くわした心の弾みがすんなり出ているのがよい。
作者の猪俣千代子さんはおととい12月8日、92歳で逝去された。
句集『八十八夜』(2014.11 角川学芸出版)所収。
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