樋口由紀子
日常よ鷗ととべば撃たれるか
岩村憲治 (いわむら・けんじ) 1938~2001
日常とはなんだろうか。生まれ出てしまったからには否が応でも日々を暮していかねばならない。広大な海を自在に優雅に飛ぶ鷗のように、鷗と飛んでみたいと思ったことのある人はたくさんいるだろう。
「撃たれるか」が切ない。とぶ、つまり、そんな夢を見て、未知に賭けると、日常に戻れなくなる。それを作者は痛いほど知っている。日々の暮らしから離脱して、とぶという緊張に捉まりたい。けれども、何事に捉われることなく、つつがなく、平凡に遣り過していく、日常とはそういうものである。「撃たれるか」の諦観が胸にこたえる。
〈どこへ行くバケツの中に海持って〉〈仲間が死んでなんで蝶々がとんでいる〉〈うかうかと素顔になって魚釣り〉 「新京都」(1982年刊)収録。
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