相子智恵
雛壇の奈落に積みて箱の嵩 綾部仁喜
藤本美和子著『綾部仁喜の百句』(2014.10 ふらんす堂)より
雛人形たちの舞台である絢爛豪華な雛壇。その裏側の暗い隙間を、歌舞伎の舞台の下にある〈奈落〉と呼んだ面白さ。そこには雛人形が入っていた箱が、人目につかぬように積み重ねて置かれているのである。〈箱の嵩〉によってその箱の多さがよくわかり、この家の雛人形の立派さが伝わってくる。
掲句は句集『山王』所収であるが、綾部仁喜氏の弟子である著者の藤本美和子氏の解説によれば「発表当時の句は〈雛壇の奈落に積みしものの影〉であった。仁喜は推敲に推敲を重ねる人で、句会で見た俳句が発表時には全く姿を変えていることがよくある」という。
なるほどこの推敲は見事だと思った。描写がクリアーになって景が強くなっている。鑑賞本を読んでこのような鑑賞を書くというのも変な話であるが、こうした普通の人は知りえない作句現場を知ることができるのも、鑑賞本の面白さであろう。
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