バナナ茶館
小津夜景
【 みみず・ぶっくす22 】
バナナ茶館 小津夜景
は、怪しさ満点の茶館である。
勿論、茶館には怪しさがつきものだ。朝から
晩まで張り付いている客が必ずいるし、時折
漏れ聞こえる会話の断片が妙に黒話めいてド
キドキもする。私はソッチ方面に頭がイカれ
ているので「ホンモノの黒話を耳にしたい…」
と、目にする茶館という茶館を手当たり次第
つぶして回っていた時期もあった。うっかり
全く流行っていない、ヤバめの(といっても
その「ヤバさ」が本来なのだが)茶館に入っ
てしまった時などは「どうして潰れないの?
やっぱり、売薬?」と緊張しつつ、それでも
半時間弱くらいは頑張る。館の猫と戯れつつ、
耐える。
茶館とかならずセットである(べき)アイテ
ムは、壁一面を覆う薬種商風の抽出と、よく
客慣れした猫だと思う(経験は語る)。店の
主人が抽出を開け閉めしているのを見ると夢
が広がるし、猫がいると飽きる事がない。な
にもしない、愉しい時間。南仏で発見したバ
ナナ茶館はそのどちらも備えていて良かった。
また行きたい(そしていつか黒話も)。
バナナの葉凄き異国の茶館なり
漆門放てば白き薄荷かな
はつなつの光に殖ゆる非人称
睡蓮よ眸はかつてやはらかく
空蟬を炒めてあはれ昼の酒
木天蓼の花をゆらして眠らむか
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