樋口由紀子
あるじとや門標一つ晒されて
北川絢一郎 (きたがわ・けんいちろう) 1916~1999
「門標」とは表札のことである。今では家族全員の名前が書かれているものが多いが、私が子ども頃は玄関や門にこの家のあるじの名前が一枚の板にりっぱな字で威風堂々とで掲げられていた。表札はこの家で一番偉いのは私だと言っているおじさんの顔のように見えた。
しかし、掲句は「晒されて」である。すごいことを言っている。あるじになって、表札をかけたら、上から目線になって、エヘンと威張っている人ばかりだと思っていたので、意表を突かれた。冷めた見方でアイロニーがある。自分であれ、他人であれ、「晒されて」は作者の正直な気持ちなのだろう。『泰山木』(1995年刊)所収。
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