樋口由紀子
だらしなく川を流れる唐辛子
芝本勝美 (しばもと・かつみ)
川の上流から赤いものが流れてくる。なんだ唐辛子か。それなりにピリリとしてその存在を誇示してきたはずなのに、なんとだらしない格好だろう。
〈流れゆく大根の葉の早さかな 高浜虚子〉の有名な俳句がある。比べて、「だらしなく」の姿態と「唐辛子」の赤の色彩は申し分なく感情移入過多になった。「それを言っちゃおしまいよ」と川柳に対して、よく言われるセリフがあるが、まさしく掲句が言い過ぎの恩恵を受けている。
ピリリとした辛さで自己の存在や抵抗を示す唐辛子も、川という大きなもののなかに投げ出されたら、いくら抵抗しても、だらしなく流れるしかない。唐辛子と自分が重なって見えたのだろうか。自分の裡にも唐辛子は流れている。「川柳展望」40号(1985年刊)収録。
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