相子智恵
守武忌日照雨が山を走りけり 茨木和生
句集『真鳥』(2015.8 角川書店)より
荒木田守武は、室町時代の伊勢神宮の禰宜で連歌師。俳諧独吟「守武千句」を神宮に奉納し、俳諧を座興の言い捨てから文芸にまで高めた、山崎宗鑑と並ぶ俳諧の始祖とされる。守武忌は陰暦8月8日。
守武忌の俳句では高浜虚子の「祖を守り俳諧を守り守武忌」が有名である。忌日への思い、俳諧への志だけでできているような句だ。それに比べて掲句は〈日照雨が山を走りけり〉という実景をさらりと描いていて美しい。伊勢の山であろう。こちらは日が照っているのに、山の上をさっと天気雨が通り抜けていった。実景でありながらどこか幻想的で、伊勢神宮の霊力も感じる。守武という俳諧の始祖に思いを馳せる、あるいは時代を越えて守武と心の中で交信するのにふさわしい。
忌日の句、特に会ったことのない歴史上の人物の忌日の句というのは難しいものだが、美しい一句だと思った。
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