相子智恵
十三夜石鹸買つて帰りけり 鳥居三朗
句集『てつぺんかけたか』(2015.9 木の山文庫)より
昨夜10月25日は十三夜、後の月であった。十五夜のような華やかさがなく(それをむしろ楽しむ)、満月に二日早いという、少し欠けたところのあるものを愛でる日本的美意識があるという。それと同時に十三夜の月は十五夜にくらべて、上ってくる時間が早めなので、寒くなってきた今頃の月見にはありがたいという事情もあるようだ。
これらのことを考えると、十三夜は十五夜に比べて「日常感」が強いともいえる。掲句の〈石鹸買つて〉との響き合いのよさに、その思いを強くした。
ほのかに良い香りのする真新しい石鹸を手にした帰り道という、日常の中の些細な幸せ。しかも十三夜の月が出だした時間で、嬉しさが重なる。そういえば、つるんとした白い石鹸は十三夜の月と相似形だなあと気づいたりして、さらに、ほんのりと心が嬉しくなる。
“小さな幸せの肯定”ともいうべき、じんわりとした味わいのある一句である。
●
0 件のコメント:
コメントを投稿