2016年1月4日月曜日

●月曜日の一句〔益岡茱萸〕相子智恵



相子智恵






数の子を忘れた頃にぷちと噛む  益岡茱萸

句集『汽水』(2015.11 ふらんす堂)より

数の子は、おせち料理の定番である。ニシンの卵で、卵の数が多いことから「二親(にしん)から多くの子が出る」と子孫繁栄の願いを込めて食べられる。『角川俳句大歳時記』の解説には「多産すなわち一家の繁栄だと考えられていた頃にふさわしい季語である」と書かれているが、たしかに現代では多産が一家の繁栄だと考えることはほとんどない。時代や価値観、生活が変われば、おせち料理の食材に込められた願いが、人々の状況とずれてくるのも当然である。

同様に重詰の中身も現代人の好みに合わせて変化し、洋食メニューが入ることも当たり前になった。そんな現代にあっても数の子は重詰に欠かせないものであるが、箸が伸びる順番は〈忘れた頃に〉くらいになっているのかもしれないなあ、と掲句を読んで思った。

〈忘れた頃に〉と滑稽な語り出しで、数の子の存在を一旦落とした後に、〈ぷちと噛む〉の的確な食感の描写で、その存在を際立たせている。ただ食べ忘れてしまうのではなく、「そういえば、数の子を忘れちゃいけないよね」と食する。〈ぷちと噛む〉は確かにそのものを捉えて肯定する愛らしさがあり、それがめでたさにつながっている。




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