樋口由紀子
ローソク百本一息で消され
浪越靖政 (なみこし・やすまさ) 1943~
私なら一息で百本は消せないなとまず思った。実景を詠んでいるのではなく、心象だろう。実際に可能か不可能か、また、そういった場面があるかないかも問題ではなさそうである。けれども、できるかどうかを想像して、ワクワクした。もし、百本のローソクを一息で消せたら、爽快だろうし、たまたまその場面に出えたら、気分は高揚して、楽しくなるだろうと思った。言葉によって実在感をもたらせてくれた。
掲句に対して誕生日のローソクを消すイメージしかを持っていなかった。川柳の友人が昨年に亡くなっていたことがわかった。すると、一気にこの句がとてつもなく悲しい句に激変した。私の中のローソクが一息で消えた。胸に冷たいものが溜まり凍えている。消したのは人間ではどうすることもできない大きな力。川柳の読みはそのときの心情で変った。「おかじょうき」(2016年1月号)収録。
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