相子智恵
本閉ぢて雪野踏み抜く音したり 生駒大祐
「オルガン」4号「Re:Re:雪」(2016.2、編集 宮本佳世乃、発行 鴇田智哉)より
一面に雪が降り積もった野原。まだ誰も足を踏み入れていない真っ白な世界に、一歩足を踏み入れる。そのまま雪の面を滑らかに走っていけそうな気がするけれど、実際には「ぼふっ」と雪を踏み抜く音とともに、足が沈んだ。案外、雪の深さがあったのだ。
本を閉じた時に、雪を踏み抜く音がしたという。きっと、この本は辞典のような重みと厚みのある本ではないだろうか。確かにそのような本は、閉じるときに「ぼふっ」というような音を立てる。本を閉じる音が雪野を踏み抜く音だとは、言われてみればハッとする相似で、とても美しい。
真っ白な雪原が、本を閉じるまで没頭していたであろう作中主体の頭の中に重なる。そして本を閉じた音と、雪野を踏み抜いた音と足の感覚で、現実世界に帰ってきたという感じがする。
●
0 件のコメント:
コメントを投稿