相子智恵
春満月この世に生まれ臍ひとつ 鈴木多江子
「俳句」3月号「臍ひとつ」(2016.2、角川文化振興財団)より
言われてみれば、この世に生まれた誰もが臍をひとつ持っている。臍は、一本の臍の緒で母とつながっていた痕跡である。連綿と続く人類の「つながり」の痕跡だ。
生命の歴史や進化という言葉は、普段は教科書に載っていることのように遠い。しかし臍を見れば、その痕跡を身近に感じることができるのである。
滴るような春満月の取り合わせによって、一句に大きな時空間が引き入れられている。潮の満ち引きは月と関係しているが、一説によると、満月の日は出産も多くなるらしい。生命が歴史を刻む間ずっと空にありつづけた月と、〈臍ひとつ〉につながりの痕跡をとどめる私たちとが響きあっている。
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