関悦史
芋虫や真面目に薬飲みつづけ 大野すい
「芋虫」と服薬という取り合わせ、普通に取れば、他に移動の手段を持たない芋虫が地道に這っていくさまと、「真面目に」欠かさず薬を飲み続けるさまが隠喩的に通じあっているということになるのだろう。
そう取ってしまえば、意味的にも過不足なく理解できてしまう句ではあるのだが、しかし「芋虫」との取り合わせは意外でユーモラスである。
薬を飲んでいる語り手当人はあくまで「真面目」なのだ。作者本人にもおそらく過剰にふざけてみせようという意図はない。そこがかえって妙におかしい。自分が真面目に成し続けている作業の喩えとして「芋虫」を持ちだす人が普通いるであろうか。あの進み方の柔らかい蠕動運動が、真面目さが持つ硬直ぶりをおのずと裏切ってしまうのだ。
さらには真面目に薬を飲み続けた結果として、「芋虫」に変身しそうな奇妙な気配、いやむしろ「芋虫」たることを目指しているような気配も、この句からは感じられる。
「芋虫」がめでたく蝶になれば全快ということにもなろうが、そこまで読むと理に落ちる。
「芋虫」のようにもこもこと薬を飲み続ける日常の営みそのものに、ある種の幸福が宿っているのである。
句集『雪あそび』(2016.2 本阿弥書店)所収。
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