2016年3月14日月曜日

●月曜日の一句〔ふけとしこ〕相子智恵



相子智恵






貝殻に通貨たりし日春未だ  ふけとしこ

『俳句新空間』No.5「今日のニュース」(2016.02 豈の会)より

〈春未だ〉は、私の手持ちの歳時記には載っていなかったのだが、「春浅し」の派生季語だろうか。晩冬か早春の感じのある言葉である。

貝殻は調べてみると、アジア、アフリカ、オセアニア、アメリカなど、幅広い大陸と島々で、はるか昔に貨幣として使われていたようだ。特に宝貝が用いられたという。貝殻の冷たさと滑らかな光は、少しずつ日の光が強くなってきつつも、いまだ寒さの続く早春の頃の季節感と響きあう。

春浅く、まだ寒い海岸を歩いていると、すべすべと光る貝殻を見つけた。拾い上げたとたん、かつて貝殻が通貨だった日もあったのだと思い出す。昔の人も貝殻を拾ったであろう浜辺。海の向こうに目をやれば、沖には早春の淡い日の光が反射している…そんな光景が想像された。

一粒の貝殻から、時空が広がる一句である。

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