相子智恵
善人の往生したる暑さかな 山﨑百花
句集『五彩』(2016.05 現代俳句協会)より
「善人の往生したる」は、親鸞『歎異抄』の「善人なほもて往生を遂ぐ、いはんや悪人をや」の悪人正機説をを踏まえていよう。
「往生したる暑さかな」のあっけないほどの書きぶりが、諧謔的で真理を突いている。あっけらかんとした残酷さは、虚子の「大寒の埃の如く人死ぬる」や下村槐太の「死にたれば人来て大根煮きはじむ」の放り出すような死の描き方にも通じる。
前半の「善人の往生したる」までの引用の重さを後半(落ち)の「暑さかな」で一気に軽くすることで、スピード感と諧謔味を生んでいる。暑くてどうでもよくなる感じ、と言ったら語弊があるが、善人であれ悪人であれ、暑さは暴力的にやってくる。時には人を死に至らしめる。スピード感のある、あっけなさの表現によって、暴力的なまでの暑さが感じられた。
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