相子智恵
真つ赤な牡丹剪る短調の一音 上田貴美子
句集『暦還り』(2016.04 角川文化振興財団)より
大きくよく咲いた真っ赤な牡丹を選び、切り花にする。剪定鋏を入れると短調の音がした。〈短調の一音〉には、牡丹の重さや枝の太さが感じられるのに加え、剪るときの主体の内面や、剪られる牡丹の気持ちまでもが表わされているように思う。
普通に読むと、七、七、四音だろうか。破調の句であるが、すっと入ってくる。〈牡丹〉と〈短調〉の「タン」の音や、〈一音〉の「ン」の音が重なって、調子が整っていることが大きい。
また〈一音〉の前後に、しんとした空白の時間が感じられ、それが余韻になっているので、字足らずが気にならない。コンサートホールで演奏が終わった後の、観客が拍手をするまでの数秒の静寂のようなものが連想されてくる。
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