関悦史
シュルレアリスム展みなあたたかし手のしごと 岡野泰輔
戦前の前衛芸術運動、シュルレアリスムの美術作品も、現在から見ると既に古典の位置にある。前衛が成立するのはモダニズムの枠内のことであり、ポストモダン以後である現在から見ると、グループでユートピアを目指すごとく、一団となって新奇な表現へ邁進する姿勢そのものが、古き良き時代に見えてしまうのである。
その古色のついた良さを捉えているのが「みなあたたかし」という表現と、「手のしごと」という着眼なのだ。当時の作品がいかに新奇であろうと、それらは全て手作業で成り立ったものであり、パソコンのディスプレイ上で制作されたものなど当然ながらない。「手のしごと」という把握には、実際に油絵の構図やタッチのひとつひとつを目で追っている者の、感興と息吹きがある。
冒頭からはっきり示されているように、この句は「シュルレリスム」に関する概念的な裁断といったものではなく、「シュルレアリスム展」についての体感的な批評の句なのだ。個々の作品の奇抜なイメージと、あたたかさを感じさせる手仕事の痕跡とのあわい、そこを語り手は緩やかに歩いていく。それは同時に、シュルレアリスムの時代と現在とのあわいでもある。その中にひしめく手仕事の痕跡たちは、虚空的でありながら、とてもなまなましい。
句集『なめらかな世界の肉』(2016.7 ふらんす堂)所収。
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