2016年7月1日金曜日

●金曜日の川柳〔林ふじを〕樋口由紀子



樋口由紀子






悔いるだけ悔い悔いなしと言ひきれ

林ふじを (はやし・ふじお) 1926~1959

「悔い」という語を一句に三度も使っている。その繰り返しにまず気をとられる。「悔い」の持つ意味度はかなり重い。

これから行なうことはたぶん後悔するだろうが、それでも実行し、とことん悔いて、悔いなしと言い切るのだという。「悔い」という気持ちを無垢に表現している。しかし、言いきって気持ちが楽になったわけではないだろう。「悔いなしと言いきれ」と自分に言いきかせることで崩れそうになる身を守っているのだ。痛々しいほどに自分を見据えている。だから必要以上の「悔い」なのだ。

林ふじをは、〈子にあたふ乳房にあらず女なり〉〈抱きよせてわが子の髪の素直さよ〉〈接吻のまま窒息してみたし〉〈ギリギリに生きる私に墓はいらない〉など、わずか三、四年の間に衝撃的な川柳を数多く生んだ。

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